第一章 決断 第9話
献酌官の夢は間違いなく回復を意味するものだった。自由を回復する夢だったのた。私は迷ったよ。もし、私の解き明かし通りにならず、悪い方に転んだら一大事だ。
しかし、ためらうわけにはいかない。献酌官の心配そうな顔、私を信頼して夢を語ってくれたその信頼を裏切るわけにはいかない。そして何よりも、私の心に沸き起こる確固たる自信が口を開かせたのだ。
献酌官が見た三つのつるは三日を示すものであり、あなたは三日のうちに汚名が晴れ、元の地位を取り戻すでしょう、と申し上げた。
すると献酌官は不安に満ちていた顔が緩み始めたようだったね。それはそうだろう。命が危機に瀕していると思っていたのに、私の確信に満ちた言葉は大きな励みになったようだった。
私は彼にお願いをすることも忘れなかった。
「申し上げましたように、三日の内にここから釈放されるでしょう。そして、すべての役職が回復して権威もと栄華も取り戻されます。ただ、お願いがございます。その時は私のことを思い出してください。このヨセフは、ただヘブライの地から連れて来られた奴隷でございます。ポティファル将軍に仕えていた際にも獄につながるようなことをするなど断じてありません。ここからお出になられた暁には、どうか私のことを陛下にお伝え下さり、何卒、取り計らっていただきとう存じます。」
私がどれほど懇願したか想像がつくかね。それこそ渾身の力を出し尽くしてお願いしたよ。何から何まで本当ではないか。私が兄から憎まれるようなことをしたかね。命を奪われなければならぬ悪を働いたかね。奴隷として売られなければならぬことなど、何一つしたことはないではないか。ポティファル将軍家に仕えるときも同様だ。私は夫人に対して卑しい心を抱いたことなど全くない。これは、誰よりも神がご承知のはずだ。この世界のすべての者に目を留められる主は、少なくともこの胸の内を知っておられるであろう。
振り返ってみると、私の人生は濡れ衣だらけだ。不幸な人生だ。自分の思い通りになったことなど一度もなかった。誰が私のように奴隷として売られただろう。それも血を分けた兄弟によってだ。
それでもまだ飽き足りず、また濡れ衣を着せられて牢に閉じ込められる始末。情けないではないか。私の人生の中で幸せは十七歳まで父の愛を受けたことで終わったのかと思ったよ。
このヨセフ。そういうわけにはいかぬでないか。そこで人生を終えるわけにはいかなかったのだ。
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