第六章 従順 第1話
登場人物
ツァフェナテ・パネアハ宰相(ヨセフ)
場所
ツァフェナテ・パネアハ宰相の執務室
ああ、神よ!
アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神よ!
(大声で笑う)
本当に情けない。実に情けないではありませんか。
神よ、ご覧になりましたか。そうです。彼らは間違いなく私と血を分けた兄弟たちです。しかし、彼らをご覧になりましたか。あの悪賢い弁舌をお聞きになりましたが。
覚えておいででしょう。私が兄弟に関して尋ねたところ、彼らは何と答えましたか。末の者は父とおり、もう一人はいなくなったのだそうです。いなくなった?いなくなったとは何とも白々しい。神は、あれほど汚れた言葉を口にする彼らを放っておかれるのですか。彼らは私を捨てたのです。彼らの汚れた手で私を穴の中に落とし、奴隷として売り飛ばしてしまったのです。それを…、それを…。いなくなった?何という厚かましさでしょう。言葉も出ません。私が自分の足で出ていったとでも言うのでしょうか。
おお神よ、主なる神よ!あなたは何故、彼らを生かして置かれたのですか。何故、彼らの命を取られなかったのですか。アブラハムを呼ばれた神よ、イサクに恵みを与えられた神よ、ヤコブを愛された神よ、そして、このヨセフと共におられた神よ、何故、あの者たちまでも慈悲を与えられるのですか。あの者たちが果たして神が自ら祝福されたアブラハムの子孫たちでしょうか。とんでもありません。あのみすぼらしい姿を見てください。荒野をさまよい食い物をあさる浮浪者ではありませんか。
実に見苦しい姿です。神の祝福をドブの中に投げ捨てたあの者たちをいつまで放っておかれるおつもりですか。彼らの罪をお忘れですか。私の悔しさをなんとも思われないのですか。正しくさばかれる神よ、私の叫びが聞こえないのですか。私の苦しみが見えないのですか。今まで私にこれほどの苦難を、これほどの試練をお与えになったのですから、今度は私の祈りをお聞きください。私の望みはただ一つ。ベニヤミンです。ベニヤミンであります。他には何も要りません。何も望みません。
ああ、彼らは何とも卑しいのでしょう。おそらく今この瞬間も彼らは罪のなすりあいをしていることでしょう。自分自身の醜さも知らず、自分らが犯した恐ろしい罪をも省みず、詭弁や屁理屈を並べ、邪悪なる計画だけを楽しんでいる者たちです。彼らの罪がソドムとゴモラの民が犯した罪より軽いと言えるでしょうか。
おお、神よ。ソドムとゴモラを滅ぼした硫黄の火がなぜ彼らの頭の上に落ちなかったのでしょうか。
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