第一章 決断 第6話
何日も私は牢屋の壁をただ無心に見つめながら死人のような日々を過ごした。飲まず食わずの生活。ただ命令されるままに働きながら、誰かが殴れば何も考えずただ殴られるだけだった。人生において何の意味も見出すことができなかったのだ。何の意欲があったろうか。私は私と弟を守るために父の愛を渇望したが兄たちの嫉妬と憎しみにより奴隷として売り飛ばされてしまったのだよ。もう、明々白々ではないか。私の父が信じた神がいたのなら、それはまさしく私の不幸を望む方であり、私の道を妨げる存在であり、私の努力を踏みにじる残酷な神だということを確信したのだ。私は母も失い、父も失い、兄たちも失い、最後の望みである父の信じた神までも失ったのだ。そんな私が生きていても何の意味もないではないか。私は死だけを望むようになっていたようだ。
しかし、ふとある日二つのことが思い浮かんだのだよ。まず一つ目は私が見た夢だ。兄たちの束が私の束に向かってお辞儀をし、太陽と月と十一の星たちが私にお辞儀をしたあの夢だ。いくら考えても単なる夢ではない。必ずや成就する夢、だが未だ成就されていない夢だと思えるようになったのだ。神が私の憎むゆえ、このような苦しみを与えられるとはとても思えない。考えてもみなさい。もし私を憎むのなら、ちり芥よりも、虫けらよりもみすぼらしい私を殺すことなど容易いではないか。私を殺してしまおうとしたのならポティファル将軍の手にかかって、いや、エジプトに連れてこられる前に、あの残虐極まりない兄たちの手によって、とうの昔に殺されてしまったはずだ。にもかかわらず、何度も危機に瀕してきたにもかかわらず生きてるのを見ると、これもやはり神の導きかもしれないと、この私を通じて何かを成し遂げようとされているのかもしれないと思えるようになってきたのだ。一度そのように気持ちを切り替えてみると不思議なもので、見える風景も、私に対する世間の待遇も少しずつ変わっていくような気がしたよ。ポティファル将軍がもし本当に私のことを憎んでいたのなら、私のような若い奴隷を殺めることなど、赤子の手をひねるようなものではないかね。しかし、彼は私を手にかけるようなことはなかった。それどころか私を大切にしてくれているようにも思えてきたのだよ。これこそ不思議としか言いようがない。
|