第二章 葛藤 第3話
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照明が暗くなってスポットライトが十人兄弟だけを照らす。兄弟たちは、お互いの顔を見合わせながら座っている。お互いに困ったような面持ちだ。兄弟たちの会話が始まると、ゆっくりと幕が降り、客席からは十人兄弟だけに見える。
ダン
:(ルベンを見て)おい、てめえ、何、ふざけたこと、言ってるんだよ!何で末のことを持ち出して話をこじらせてるんだよ!てめえのせいで、皆殺しにされそうじゃねえか!どうしていつも、やることなすこと、みんながこのざまなんだ!
ナフタリ :(ダンを見て)ダン兄さん!あんな奴、ほっとけよ。あんな、汚らわしいやつ、連れてきたのが間違いだったんだよ。
- ルベンが卑屈な目つきでダン、ナフタリを見ている。
ナフタリ :何、見てんだよ!この野郎!とっとと、うせろ!あっち行け!
ユダ :(ダン、ナフタリに向かって)こら!お前ら!兄さんに向かってなんて口の利き方だ!
レビ :おい、ユダ。放っとけよ。お前もあいつらの気持ちを察してやれ。それに、間違ったことなんか言ってねえじゃねえか。
シメオン :その通りだ。ダンやナフタリの言っている通りだよ。
ユダ :(シメオンを見て)兄さん、しかし、放ってはおけません。
ルベン
:(兄弟たちをいちいち見回しながら)ボ、ボク、間違ってないよ。いくらうちらの兄弟がどうなったとしても、ボクはいつもうちらの兄弟は十二人だと思ってきたんだ。あの子は目に見えなくてもボクたちと一緒にいるんだ。あの子は今もボクたちの兄弟なんだ。ボクたちの愛しい兄弟なんだ。
レビ :(シメオンに向かって静かに)兄さん、ルベンはまだヨセフが穴の中で死んだと思ってんのか。
シメオン
:(レビに静かに)そうみてえだな。そういやあ、ヨセフを奴隷商人に売り渡すとき、おそらくルベンはそこにいなかっただろう?まあ、いてもいなくても関係ねえ人間だから、気にもとめていなかったけどな。
レビ :(シメオンに静かに)じゃあ、今の今まで、誰も教えてやんなかったんすかね。
シメオン :(レビに静かに)関係ねえよ。あんな奴に誰が構うもんか。いくら何でも、ビルハ母さんに手を出すとはな…。
ルベン :(シメオンの最後の言葉を聞いて、シメオンを見て)いや、シメオン、そうじゃないんだってば。ボクじゃなくて、ビルハが先に…。
ダン
:(ルベンに向かって殴りかかろうとする)もういっぺん言ってみろ、この野郎!、まだあんなこと言ってるのか。あの野郎を生かしておかねえ。今日こそ、ぶっ殺してやる!てめぇ、ちょっとこっち来い!
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